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Peopleツナガルで働く人

関係デザインはなぜ必要か? ツナガルが植える 社会変革の種

# 企業文化
ツナガル株式会社のミッションは、つながりによる価値を生むこと。偶発的な出会いを必然に変え、体験に強度をもたらし、その後の人生にポジティブな影響を与える、そんなつながりをデザインすることである。ツナガルのR&D部門であり、価値創造を行うチームはいま、ENdemicと呼ぶ活動でその実践を始めている。
  • 竹林 謙

    ツナガル創業メンバー。大学院で認知科学を専攻し、広告代理店に入社。東日本大震災の復興事業はじめ社会課題におけるデジタルコミュニケーション設計を担当。2015年から1年のバックパック生活を経て2016年にツナガル福岡オフィスを立ち上げる。九州全域で地域課題の解決に取り組む。

  • ハレ・ローラン

    フランス出身。株式会社ガイアックスにて新規事業関係デザインの手法を用いたインバウンドツアーの開催、その後フリーランスでの国際観光コンサルタントを経て、2021年7月ツナガルへ入社。ツナガルのR&D部門である新規事業の立ち上げに参画し、ENdemicの活動のもと、環境や体験、コミュニティ等の関係デザインに取り組む。

新しいビジネスを立ち上げようと考えた時に、まず検討するのは市場だろう。買い手を見つけ、彼らが欲しがる製品やサービスを提供する。ニーズを見つけられれば、ビジネスは作りやすい。しかし一方で、ニーズとして顕在化しなくても、社会に必要なものはあるはずだ。ニーズが先ではなく、これからの社会にあるべきものを先に思い描く。そこに価値をつけて、ビジネスを派生させる。それが、ツナガルが手掛けるビジョンドリブンのビジネスである。

かつては訪日観光客を相手に日本の魅力を伝え、異文化間の接点を作り出してきたハレは、ツナガルに入社してこのプロジェクトの原型を作った。

ハレ「日本語には、『生きがい』という素敵な言葉がありますね。でも、働くことと生きがいが一致している例は、多くないと感じています。これまでの資本主義社会の中では、お金を作ることが良しとされ、自分の感情を押し殺してでも働くのが良しとされてきました。特に日本は、建前を大事にする社会で、仕事上で本音を言う機会が少なかったり、精神的な結びつきを感じられずに孤独になってしまったりという問題もありました」。

そして新型コロナウィルスが、さらに人々の分断を深めてしまったように思える。

ハレ「隣人と話す機会を奪われ、皆がスマホをいじっていて、スマホや端末を通じて孤独に抗おうとしているように思えます。でも、それで人は幸せになれるのでしょうか。昔であれば、隣人同士で縁を作り、幸せの輪を広げていった。そのようなことを、今の社会で実現できないか。それをツナガルとしてやるにはどうしたら良いか。そう考えるようになりました」。

多数の専門分野を持つハレだが、前職では日田市に赴任し、インバウンド観光の強化などを支援した。異文化間の交流をどう意義深いものにするか、関係デザインを肌で学んでいった

竹林「私たちの社名でもあるツナガルことの価値が、コロナによってよりわかりやすく浮上したとも言えます。人は潜在的に、知らない人と出会ったり、自分の枠から抜け出してもっと自由になりたいと感じているんだと思います。その実践のひとつが、旅です。旅は、多様な文化に触れ、多様な価値観に出会い、それが時には自分の人生を決定づけることもあるものですから」。

実は、ツナガルが自社のビジョンを定めるために行ったワークショップの中で、社員たちから出てきたキーワードが「旅」だった。事実、社員たちの多くは旅好きで、英語ほか数カ国語を操り、海外でのビジネス経験も豊富。そんな彼らだからこそ、自由に旅することができなくなったコロナ難の時代に、旅のような体験をもたらすプロジェクトを構想したのも納得できる。

竹林「そうして立ち上げたのが、ENdemicという思考方法であり、その実践としてのNOMADOです。詳しい説明は別項に譲りますが、今日はそれらを通じて実現したい未来について話したいと思います」。

アイデンティティが書き換わる出会い

ツナガルはもともと、人と人や地域と地域につながりを作り、それをクライアントワークに落とし込んで自社の収益につなげてきた企業である。そしてこれから進める事業の狙いは、つながることの価値をもっと広く社会に提供し、その力で社会変革を起こすことだ。

しかし、単につながりの機会を増やせば達成できるわけではない。すれ違い程度のつながりなら電車内にもコンビニにも無数にあり、マッチングアプリを開けば出会いのきっかけだって用意されている。ツナガルが作りたいのは、より深く、濃いつながりだ。

ハレ「旅の価値はどこにあるのかと考えてみると、ただ見たことがないものを見るだけではないはずです。勇気を出して旅の計画をし、苦労して長旅をして、疲れながらも目的地にたどり着く。お金を払い、たくさんの人たちと出会い、一期一会を希少に感じる。それが時には、自分に大きな影響を与えることもある。出会う前と出会った後で、心に不可逆の変化が起き、その後の自分の生き方を決定づけてしまう。そんな出会いのことを、私たちは『アイデンティティ・シフト』と呼んでいます。そのような体験を形作るのが、私たちが掲げる関係デザインなのです」。

例えば、NOMADOですでに始まっている、フランス・ノルマンディーの小学校と大分県の地域事業者をオンラインでつなぐ試み。これは単なるオンラインミーティングではない。カリキュラムの中に、お互いの文化を理解し、深め、好きになるための体験が、デザインされて組み込まれている。普通に学校生活を送っていれば出会うことのなかった両者が出会い、お互いに興味を持ち、国の距離を超えて、存在がぐっと身近になる。さらに興味を持てば、時間をかけて互いの国の文化を学び、やがては国同士を行き来し、仕事をしたり、家庭を築くこともあるだろう。デザインされた出会いは、自身の記憶に深く刻まれ、アイデンティティ・シフトを起こす。

ノルマンディーの子どもたちに、自分の名前のカタカナや漢字を教えてあげる。すると、自分の名前という特別なものと日本の文字文化が結びつき、深い体験になる。これが日本への興味の種になる

竹林「関係デザインに必要な要素は、次の3つだと考えています。まず、感情が芽生えるきっかけをつくること。そして、強度のある体験をつくること。さらに、長期的な双方向コミュニティをデザインすること。この3つは、これまでツナガルが事業を通じて得意としてきたことであり、私たち自身が多様な価値観を内包するチームだからこそできることだと思っています」。

心の連帯の時代に向けて

そして、適切な関係デザインを通じてつながることができるのは、何も子どもたち同士や、国と国との関係に限った話ではない。

竹林「たとえばジェンダーやマイノリティの偏見や差別といった問題は、無知や無理解、無関心から引き起こされるものですが、本人が自らその無理解に気づくことはほとんどありません。だからこそ、その壁を超えてつながるような体験をデザインする必要があるんです。すでに見えている壁、そしてまだ気づいていない壁がどこにあるのか。その観察が、最初の一歩になります」。

竹林は、認知科学を軸に人の心や脳の動き、行動を研究してきた。体験にどう誘い、それをどう感じてもらうかという発想が、関係デザインの基礎をつくる

ハレ「私は日本の社会からすれば、見た目も、身振り手振りもいかにも『ガイジン』です。未知の人と接することに恐怖心を抱くのは当然ですから、私がどこかの地域コミュニティにいきなり入っていけば、警戒されてしまう。でもその出会いがデザインされていれば、安全な関係性を構築できて、そこから未知の世界が開く。これが、私たちのいう関係デザインなのです」。

もちろん、これはまだ社会実験の段階であり、ツナガルの社会投資プロジェクトである。ただ、ニーズからは生まれえないものを追い求めるのであれば、先行投資が必要になる。それを外部からの資金調達でもなく、慈善事業でもなく、自社の利益から配分して投資に当てているところに、このプロジェクトにかける本気度が窺える。

竹林「ツナガルは常にイノベーティブな会社でありたいと思っています。そのためには、既存の市場に執着せず、ピボットしていくことが大事です。ツナガルは広告という市場から始まって、海外とのグローバルコミュニケーション領域にピボットし、今はまた、体験をデザインするという新たな領域に踏み出している。こういうことができるのは、そもそも企業としての土台が固まってきたからでもあるし、ハレのような専門家を組織に招き入れてきたからでもあります。だから、我々の知らない領域に専門性を持っている方には、これからも積極的に声をかけていきたい。ENdemicのプロジェクトをデザインし、実行していく人。理念の表現方法を考え、増やしてくれる人。アイデアを形にするアートディレクターやデザイナー。そもそも、この意義やムーブメントに共感し、一緒に進めていきたいと思ってくれる人。そんな人たちと一緒に、この試みを続けたいと思っています」。

ハレ「最近、英語圏でよく提唱されている『New Solidarity』という言葉があります。Solidalityとは、連帯のこと。この言葉は、私たちが目指すイメージとも近く、親しみを感じます。これまで、国と国との連帯というのは、多分に地政学的なものでした。中国の脅威によって、台湾と日本の関係が近くなるとか、ロシアのウクライナ侵攻によって、NATOの連帯が強まるとか。それは政治的な緊張に対抗するためのもので、拮抗する力を誇示するための連帯です。でも、私たちが作ろうとしているつながりとは、教育や文化、アートによる連帯。敵を作るのではなく、生きることの豊かさによって連帯することです。コロナによって世界中でコミュニケーションが分断され、新たな戦争も引き起こされてしまいました。私たちが、偏見や歪んだ理解を超えてつながり、うちに潜む恐怖心を乗り越えてゆくことが、いまこそ社会に必要なことなのだと思っています」。

人は仕事を通じて世の中に自分の力を投じ、社会に影響を与えていくことができる。だとしたら、これまで培ったスキルのすべてを注ぎ込んで、より良い未来のために使いたい。ツナガルの挑戦は、働くことと生きることを結びつけ、生きがいを自らデザインしていく挑戦でもあるのだ。

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